僕は、もともと、引きこもりでした。
高校中退してから、なんか、世間と接するのが怖くなってしまって、部屋から出られなくなったんです。何とかリハビリして、バイト生活くらいはできるようになりましたが、それでもこのご時世、大学も出ていない身分どころか、高校中退では、ろくな仕事がないことはわかっていました。
だから、もう、そのへんのことはあきらめかけていたんです。でも、引きこもり生活の中でも、学べることはありました。人間、とにかく、誰かとコミュニケーションしていないと、徹底的にダメになってしまうということです。将来のことは悲観していましたが、そういう部分は、なんだかまともな自分で、もう二度と引きこもりに戻ってはいけないと思っていました。
だから、あえてこういう僕には向いていないと思える、人と接するバイトをちゃんと探してみようと思って、新宿のボーイズバーで働くことに決めたんです。幸い、お店の人には自分の経歴なんかも理解してもらって、「見た目は全然暗そうでもないし、むしろ印象はいい感じだから」と励まされ、何とか仕事を始めることが出来ました。
最初に決めていたのは、「無理はしないでおこう」ということです。無理をしているのって絶対にお客様に伝わってしまうし、そういうのは、相手を疲れさせてしまいます。だからあくまでお金持ちになりたいとか、そういう気持ちでもなく、ただ最低限のお金を稼ぐことを目的として、フラットな気持ちで接客に望むようにしました。
そのおかげでしょうか。お客様にも、「話していて居心地がいい」と言われるようになり、少しずつ、ありがたいことに指名とリピートもつくように…。中卒でも、これだけのお金を稼ぐことができるのだから、やっぱりその点は魅力的ですね。でもそれ以上に、中卒でも自分の居場所がこの世界にあると感じられるのは、本当に何よりの幸福だと思います。
ただ、ボーイズバーの世界って、簡単なことばかりじゃありません。お客様の個性はそれぞれですし、うまくいかないことも…正直あります。でも、それも経験です。そういうことからしか成長できないし、すべてのコミュニケーションがうまくいくはずもないです。
失敗したって、確かに働いたことにはなるのだから、その分のお金はもらえます。まあ、苦々しいもんですが…そうやってたくさん働けば、実際、世間的にはお金持ちと言われるレベルの貯金だって作れます。というか、僕でも、それくらいの稼ぎは、毎月得られるようになってきました。それがモチベーションになっていることも、やっぱり、事実です。
ただ、最初にこの仕事を始めたきっかけは、「コミュニケーションしたい」という気持ちです。そういう初心を忘れることはありませんし、お客様と接するのは、基本的に楽しいです。暗澹とした引きこもり生活から比べると、とても充実しています。
今では「大検」という新しい目標も出てきて…何とか、未来に希望も持てそうな気がしています。